BTOパソコンメーカー「サイコム」に潜入!こだわりの原点を直撃取材

各種パーツの選び方から目的別のパソコン選びなど、「@Sycom BTO Vision」ではパソコンに関する様々な話題を提供してきましたが、今回は特別編として、BTOメーカーとしておなじみのサイコムに潜入!同社のこだわりの秘密などをチェックしてきました。




埼玉県八潮市の閑静な住宅街に位置するサイコム本社を訪れると、同社の代表取締役CEOである河野孝史さん、プロダクトマネージャーの山田正太郎さん、マーケティング担当マネージャーの佐藤明さんが出迎えてくれました。社長直々のお出迎えに恐縮しつつ、まずはサイコムの歴史をお伺いし、そこから同社のこだわりの秘密についてを紐解いていこうと思います。




1.サイコムの歴史

1999年5月31日に創業したサイコムですが、この5月31日というのは同社が株式会社化された日付で、それ以前から河野社長が個人事業として展開していたそうです。小学生の頃からパソコン好きだったという河野社長ですが、当時流行しだしたインターネットに目をつけて起業。メモリの販売からスタートし、様々なパーツ販売に拡大した後、パソコンの組立販売へと事業を展開していきました。

河野社長「当時はホワイトボックスと言われていた時代で、パーツの仕入先などもあまり開拓できていなかったので、秋葉原まで自分で買い出しに行ったりもしていました。ちょうど自作が盛り上がってきた時期だったので、そのブームに乗れたのが大きかったと思います」



なお、サイコムという屋号は、「System & Computer」を略したもの、決して「埼玉コンピューター」の略ではありませんと釘を刺す河野社長。

河野社長「創業からずっと埼玉でやっているのは事実なんですけどね(笑)」

創業当時から、河野社長が大事にしているのは「信用」。顔の見えないインターネットで商売をする以上、特に小さい会社の場合、安心して購入できるという「信用」をいかに築くのが必要だったと振り返ります。メモリを販売していた当時から、相性問題が出れば無条件で返品を受けつけていたという河野社長ですが、パソコン本体を販売するようになってからは、できるだけ納期を早くするだけでなく、さらに「納期厳守」を前面に打ち出すようになったそうです。

河野社長「今でこそ納期が早いメーカーさんも増えましたが、当時は1カ月くらい掛かるのが当たり前の世界で、それに対する不満がネットなどにも溢れていました。だから、うちは絶対に7日で納品してやろうと。最短7日ではなく、最長7日。これを前面に打ち出すようにしました」

現在でもサイコムでは、納期については「最長」という表現が使われています。実際、最長7日と言いつつ、2~3日で出荷していることが多いそうですが、「お客様に嘘をついてはいけない」という強い信念から、いまだに「最長」という表現にこだわっているとのことです。この意識は、自分よりも昔からいる社員のほうが強いかもしれないと河野社長は続けます。

河野社長「実は数年前、少し調子に乗って、納期なんかどうでも良くないかと思ったことがありました。これは納期を守らないということではなく、例えば20日間でもいいから、無理をせずに確実な納期を示したほうが、お客様のためになると思ったんですよ」

自分たちのキャパシティをオーバーするような注文が入った場合、無理に納期を早めると、ちょっとしたミスが重なり、大きな事故に繋がるかもしれないという想いからの決断でしたが、一番長くて40営業日、実質2カ月オーバーという納期になったこともあったそうです。これに対して声を上げたのが、昔からいる社員たち。「本当にこれで良いんですか?」と詰め寄られたと苦笑いを浮かべながら、河野社長は当時を振り返ります。

河野社長「納期を守るのは当然で、それを短納期、今では7日は短納期と言えないかもしれませんが、せめてそのラインは守るべきではないかと言われたとき、自分が思っていた以上に、自分の想いが社員たちに染み付いていたことに気付かされました。それからは、時間が掛かりそうなときは受注そのものをストップするようにして、同じ失敗を繰り返さないようにしています」

BTOパソコンがホワイトボックスと呼ばれていた時代から、20年以上の月日が経つ中、多くの会社が撤退していったのを見てきたという河野社長。サイコムが、その激動の中を生き残れたのは、やはり価格ではなく、納期を厳守することによって勝ち得た信頼感が大きかったのではないかと分析し、そして今後、さらに生き続けるためには、納期厳守以外にも、他社との差別化を図る必要であると考えます。

河野社長「組み立て代行と言われるのはちょっと悔しいんですよ。もちろん、お客様が選んだパーツをきちんと組み立てて、保証をつけて売るのがサイコムの根幹ではありますが、それと同時に、どれだけ自分の色が出せるかが、今後の勝負になると思っています」

サイコムでは、デュアル水冷の「G-Master Hydro」や静音を追求した「Silent-Master」シリーズなど、特徴的なハイエンドモデルを次々と打ち出していますが、そこには、「ニッチでも、お客様のニーズがあるなら、究極を目指そう」という同社の姿勢が見られます。

河野社長「あまりニッチに走りすぎるとお客様がいなくなるというのはわかっているので、お買い求めしやすいモデルももちろん用意していますが、やはり、他の会社がやらないような、自分たちだけのオリジナリティを打ち出せば、それに反応していただける方が、数は少ないと思うんですけど、確実にいらっしゃるんですよ。そういった方にしっかりお届けするのが自分たちの仕事だと思っています。そして、すぐには響かなくても、こういう世界があることを多くの方に知っていただければ、それも今後に繋がるのではないかと思っています」




2.サイコムのパーツ選びへのこだわり

2-1.着眼点が異なるメーカー

こだわりとオリジナリティの詰まったサイコムのBTOパソコンですが、プロダクトマネージャーの山田さんが入社したことも差別化を図るための大きな転機になっていると話す河野社長。かつてパーツの代理店でサイコム担当として働いていた山田さんは、入社前からサイコムに対してひとつの想いがあったことを振り返ります。

山田さん「サイコムは、他の会社が買わないようなパーツを買ってくれたんです。物自体はすごく良いけど、人気がないから売れないパーツがけっこうあったのですが、そんなパーツを進んで購入してくれるサイコムは、ちょっと違うなって。当時はたしかにあまり差別化はできていなかったと思いますが、ケースの中身を見ると、他とは違う。着眼点の違いというのは当時から感じていたところです」

わかる人にはわかる。そんなパーツを当時から積極的に採用していたサイコムですが、山田さんが入社して、国内の代理店ではなく、海外のメーカーと直接やり取りをするようになったのが、差別化戦略のひとつのスタートになっています。

山田さん「国内の代理店を通さずに、海外のメーカーと直接やり取りをすることのメリットは、コストダウンという点もありますが、こちらの細かなリクエストにも応えてくれるようになることが最大のメリットだと思います」



2-2.CPUクーラーへのこだわり

サイコムの大きな特徴とも言えるNoctua製のCPUクーラーですが、その採用理由について山田さんは「性能です。それ以外に理由はありません」と断言します。安くて冷えるCPUクーラーは他にもあり、コストパフォーマンス自体は決して良くないというNoctuaですが、性能はやはり頭ひとつ抜けていると熱弁します。

山田さん「代理店にいた頃から目をつけていたのですが、あまり数を売りたがらないメーカーなんですよ。とにかくファンのことだけを考えているようなメーカーで、先のことを見据えて、本当に良いものを作っている。実際に話をすると、何を言っているのかよくわからないんですよ。学者みたいな人が、見たこともないような計算式を見せてくるので(笑)。しかし、絶対的な性能で、上のグレードになると下手な水冷よりも冷えますから」

河野社長も「Noctua以外にも良い製品はたくさんありますが、やはり究極を目指すなら妥協はしたくない」と同意。佐藤さんも「その良さをいかにお客様に伝えるかが自分たちの仕事」と続ける。

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2-3.ビデオカードの水冷化へのこだわり

サイコムが水冷モデルを手掛けてからおよそ12年。その中でも、CPUだけでなくビデオカードに水冷ユニットを組み合わせた「G-Master Hydro」は、同社のフラッグシップモデルとして、一際大きな存在感を示しています。この「G-Master Hydro」も、水冷ユニットを手掛けるAsetek社との直接のやり取りによって生まれたモデルとなっています。

山田さん「超巨大企業で、うちなんか相手にもしてくれないだろうと思っていたのですが、ビデオカード(グラフィックボード)の水冷化もあわせて話をしたら、何か面白がってくれて。普通なら、(オーダー数が)ひと桁違うといって門前払いですよ。そのあたりも人間関係ですよね」

ビデオカードの水冷化は数多くのメーカーが挑戦しているが、実質的に成功しているのはサイコムだけと言える状況になっています。実際、ビデオカードに水冷ユニットを組み合わせるのは簡単ではなく、製品化までに多大な苦労があったと山田さんは振り返ります。

山田さん「ビデオカードを水冷化させるキットというのあったのですが、それがなかなか一筋縄ではいかない。ただくっつけるだけでもダメですし、そもそもビデオカードはメーカーによって基板のレイアウトが異なるので、くっつけることさえ出来ないことも珍しくないんです。今、うちではGeForce RTX 4080/4090の水冷モデルを出していますが、水冷ユニットは3000番台用に作られたものを使っています。他の会社さんはわざわざこんなことしないですよね(笑)」

実際、GeForce RTX 4080/4090は、VRAMがGDDR6Xになったため、3000番台用の水冷ユニットをそのまま流用するだけでは発熱を抑えることができず、製品化までにはかなりの工夫が必要だったとのことです。

山田さん「こんなことができるのも、ある意味では、うちのスケールメリットのおかげかなと思います。小さい会社だからこそ小回りが効く。もはや情熱だけでくっつけているようなものですから(笑)。ただ、やはり『G-Master Hydro』によって、うちの会社が一皮も二皮も剥けたんじゃないかと思っています」

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2-4.電源&メモリのこだわり

「電源とメモリはケチるべきではありません」と話す山田さん。サイコムのBTOパソコンには様々なメーカーの電源ユニットが採用されていますが、特にSilverStone製の電源ユニットの採用例が多いのは、コストと品質のバランスが良いことに加えて、ここでも長きにわたる繋がりが重視されているとのことです。

河野社長「電源は、前の製品が良かったから、次の製品が良いとは限らないので、何かがあったときに、すぐに対応してくれるコネクションがやはり重要です。どんなに信頼していても、時にはやらかすこともあるじゃないですか。そんなときにすぐリカバリーしてくれる関係性が非常に大事になってきます。これも海外メーカーと直接やりとりをしていることのひとつのメリットだと思いますし、その安心感はお客様の安心感にも繋がるのではないかと思っています」

自身でもメモリ販売を行っていただけあり、メモリの選択には一家言ある河野社長。パーツ選択の幅広さに定評のあるサイコムにおいて、メモリだけは選択の自由度が低く、そこに不満の声もあるという。

河野社長「昔ほど相性問題は起こりにくくなっていますが、やはりちゃんと品質を見極める目が必要なパーツだと思っています。サイコムがあまりメモリを選ばせないのは、メモリの怖さを一番よくわかっているからなんです。とにかくメモリはシビアですから、これだけは私達に任せていただきたい。パソコンを安定して動作させるために、メモリを選ばせないことが、逆に、私達のこだわりと言って良いかもしれません」

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2-5.オリジナルケースの夢と現実

サイコムのBTOパソコンが採用するPCケースは、多少のカスタマイズが施されているものもありますが、基本的には市販されているPCケースが使用されています。大手メーカーはもちろん、BTOメーカーでも専用PCケースを用意することが珍しくない状況における、サイコムのPCケースへの考えを伺ってみました。

河野社長「実際、サイコムオリジナルのPCケースを作りたいという気持ちはあって、何度かトライしたこともあります。サイコムが組み立て代行だと思われがちなのは、オリジナルケースがないことも理由のひとつだと思っているので。ただ、うちの規模でオリジナルを用意するのがちょっと難しいんですよ。差別化という意味ではプラスになりますが、ほかのことがマイナスになりかねない」

山田さん「実際にプロジェクトを立ち上げて、試作品を作ってみたのですが、(サイコムで採用されている)Fractal DesignのDefine7と並べてみたら、Define7で良くない?ってなってしまって……。悲しいですけど、ただの自己満足になってしまったらダメなんですよ。組み立て効率も重要ですが、逆に、お客様が満足してくれるなら、効率が悪くても良いと思っています。その視点で考えると、やっぱりDefine7で良いかなって。完成度が高すぎるんですよね(笑)」

PCケースはアイデンティティであり、重視したいポイントではあるものの、「自分たちが作るよりも良いものがあるのであれば、そちらを使ったほうが良い」と話す河野社長。特にサイコムの場合は、機能面でのコンセプトを重視するため、コンセプトにあわせてPCケースを変えるのもひとつのこだわりになっています。ただ今後、ラッピングやカラーリングなどのカスタマイズについては検討していきたいとのことでした。




3.今後の展望

魅力的な製品ラインナップを揃えるサイコムですが、今後もさらに、他のメーカーとの差別化を図っていくという河野社長。そして、その差別化を図る中でも「ストーリー」を大事にしたいと山田さんが続けます。

山田さん「自分は、いかにストーリーがあるかを重視しています。ただパソコンがあるだけではストーリーはできません。だから、マーケティングだったり、WEBサイドなどでストーリーを伝える必要があります」

河野社長「そして、そのストーリーに共感して、お客様はパソコンを買ってくれるのだと思っていますので、今後も差別化を図りながら、お客様のニーズにあったストーリーを示していければと思っています」




4.サイコムの工場に潜入

河野社長、山田さん、佐藤さんのお話を伺った後、本社から少し離れた場所にある工場の見学へと向かいました。


入口から入ってすぐ目に入るのがパーツの山。サイコムの工場は倉庫も兼ねていることもあり、パーツ好きなら垂涎もののお宝に、いきなりテンションもマックスです。


工場内では、サイコムが誇る熟練の職人達がパソコンの組立作業を行っています。決して流れ作業ではなく、1台1台を真剣に、そして丁寧に組み立てていく様子は、空調の効いた室内でも何か熱気のようなものが感じられます。


組み立てられたパソコンは、すべてOSがインストールされ、動作検証が行われます。


動作検証が終われば出荷。専用の梱包ボックスに、組み立て同様、丁寧に梱包され、お客様の元ヘと出荷されていきます。

こちらは、トラブルや故障などで戻ってきたパソコンを検証、修理するサポートルーム。しっかりとした保証およびサポート体制もサイコムの魅力のひとつとなっています。




5.まとめ

今回は、いつもと趣向を変えて、サイコムの魅力やこだわりを紹介していきました。河野社長をはじめ、サイコムの方々の想いの一端でもお伝えすることができていれば幸いです。

創業からの一貫した「納期厳守」の考え方や、パーツ選定への想い。さらに、オリジナリティや差別化への戦略など、数々のこだわりが詰まったパソコンが組み立てられる工場の様子も、ほんの一部にはなりますが紹介しました。

パソコン選びの直接的な参考にはならないかもしれませんが、パソコンを購入する際は、こういった想いが詰まっていることを少しでも思い出していただければと思います。



BTOパソコン売れ筋ランキング

(4月1日~4月31日)

  • 1位
    1位G-Master Velox II Intel Edition
    高品質なパーツを採用した納得の標準構成と厳選されたオプションパーツでシンプルなカスタマイズが楽しめる新機軸のゲーミングPC!
    定番のインテル® Core™ プロセッサ搭載モデルです。
  • 2位
    2位G-Master Spear Z790/D5
    DDR5メモリとインテル® Core™ プロセッサを採用するミドルタワー型ゲーミングPC。
    高性能と高拡張性を実現したゲーマー向けハイエンドモデルです。
  • 3位
    3位Radiant GZ3500Z790/D5
    インテル® Core™ プロセッサとDDR5メモリを搭載するATXミドルタワー型モデル。BTOならではのカスタマイズの幅が広いスタンダードなモデルです。
  • 4位Radiant VX3100B660/D4
    インテル® Core™ プロセッサ(第14世代)採用のMicroATXミニタワー型モデル。ミドルタワー型PCは大きくて置けない、でも高性能なパソコンが欲しい!とお悩みの貴方にオススメ!
  • 5位G-Master Hydro Z790 Extreme/D5
    CPU冷却に360mm大型ラジエーターの水冷ユニットを搭載するデュアル水冷ゲーミングPC。インテル® Core™ プロセッサとサイコム独自に水冷化したGeForce RTX4000シリーズとの組み合わせで、最強のゲーミング環境を実現します。
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    こだわりのNoctua製空冷CPUクーラーを採用し、エアーフローと静音性のバランスを極めた静音PC。インテル® Core™ プロセッサを搭載するATXミドルタワー型モデル。
  • 7位G-Master Spear X670A
    Zen4アーキテクチャ採用のAMD Ryzen 7000シリーズを搭載するミドルタワー型ゲーミングPC。高性能と高拡張性を実現したゲーマー向けハイエンドモデルです。
  • 8位Silent-Master PRO Z790/D5
    低電圧CPUとファンレスCPUクーラーを組み合わせることにより誕生した究極の超静音PC。独自セッティングにて低電圧CPUの性能向上も実現しました。
  • 9位Radiant GZ3500X670A
    Zen4アーキテクチャ採用のAMD Ryzen 7000シリーズ搭載ATXミドルタワー型モデル。BTOならではのカスタマイズの幅が広いスタンダードなモデルです。
  • 10位Premium-Line B760FD-Mini/T/D5
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